ADUSTAルアーデザイナーの中西です。これから数回に渡ってBARBATOS 開発秘話を公開したいと思う。
1.サイレントブラスターの衝撃的な釣果から全ては始まった
2020年06月池原の取材で衝撃的な出来事が起こった。サタン島田氏にサイレントブラスターでの釣行取材中に50upのキャッチ後3投目に66cm4kgOverをキャッチ。
確かに、取材は天候・気温・時期を綿密に打ち合わせして日取りを決めていくのだが、この日の釣果は本当にすごかった。50upをキャッチした直後になんとロクマルオーバー。
雨上がりで濁りが入った状況でサイレントブラスターのブレードとサウンド・ボリューミーなボディとリップが作り出す波動がサタン島田氏の絶妙なアプローチとトレースラインにシンクロした結果だった。
その日一日中投げきった島田氏はサイレントブラスターの集魚力と実釣能力のポテンシャルを称えてくれていた。
その後、ADUSTAでなにか新しい製品を作れないか?という話の中で自然とサイレントブラスターの特徴を生かした話が上がっていった。
2.強力な水押の…巨大なサイブラ
まず着手したのが、ボディサイズを等倍で大きくすること。
開発当初は、なにせこのサイズのリップ付きジャイアントベイトは世にほとんど出ておらず、引き抵抗など未知数な点が多かった。
ボディ全長(リップ・テールを除いた部分)①178mm・②205mm・③230mmの
3パターンを作成。それぞれのアクションを確認してゆくこととなった。
ボディが太いサイレントブラスターはサイズの割に強い水押しも特徴。それをジャイアントベイトにした段でどこまで残すかも、引き抵抗とのバランスにおいて課題となった。
そもそもジャイアントベイトにした段階で水押しは強くなる。等倍のままだと引き抵抗だけが強調された印象が強くなってしまう。
3Dプリントサンプルが完成した時点で仮組みしてテストしてみると想像通り、かなりの引き抵抗が。。。これはさすがに辛いなと思いながらも、まずは島田氏の意見を求めるためにテスト釣行に向かう事になった。
島田氏との実釣テスト・ミーティングを繰り返す中で、やはり【いかに引き抵抗を軽くするか?】【早引きに対応できるか?】が課題として上がってきた。
サイズに関しても【一日使い切れるサイズ感と魚を寄せるサイズ感】の両立という観点から、微調整を数回行い195mmに変更。現状の製品版のボリュームが確定された。
テストを進めていく中で、ジャイアントベイトサイズにして、サイレントブラスターと同様に強烈なラトルサウンドは必要かどうかという話が島田氏から上がってきた。
3.強烈なラトルサウンドの調整
サイレントブラスターは、140mmというサイズ感に強烈なラトルサウンドが挿入されて
一つのルアーとしてアピールの高いセッティングが出せている。
しかしジャイアントベイトにサイズアップするとアピール力が強すぎてしまっているのではないか?、ジョイント部分から発生するボディサウンド(接触音)だけで十分アピール力があるという話もあり、ラトルサウンドをなくす方向となった。
4.引き抵抗を極力へらすため
島田氏のジャイアントベイトスタイルである【高速引き】に完全にアジャストさせながらしっかりとルアーとしてバスにアピールできるアクションに仕上げるには?
通常サイズの10cmほどのルアーであれば気にならない引き抵抗でも、ジャイアントベイトサイズともなると、腕への負担が急激に増大する。
しかも潜航深度のリクエストはシャロー。高速リトリーブ状態で潜りすぎても、潜らなさすぎても行けないという難題だった。
まずはサイレントブラスターのようなウェイクベイト系のリップ形状から始めて行った。しっかりとしたアクションは出さないといけない加減、リップを小さくしすぎるわけにもいかない。
様々なサイズ、リップの取り付け位置、角度を20種以上作成していった。
もちろんその中には、【これはこれでノーマルリトリーブでは使いやすい】とか【デッドスローなら絶妙】などコンセプトとはズレるものの秀逸なリップも生み出された。
5.アクションと引き抵抗・潜航深度のバランス(ブレードリグ)
試行錯誤する中で、アクションはOKいただくものが完成していた。しかし、問題は潜航深度だった。島田氏的には【潜りすぎる。チェイスしてくる魚が見えるレンジで勝負できるルアーに仕上げたい】という話を頂いていた。
作り手側としては、現状がアクション的にバランスの取れたリップ形状である以上、あまり変更はしたくない。【どうやって潜航深度を浅くするか?】
ラインアイの微調整やボディ浮力の再調整、リップ角度の微調整など様々な変更を行ったが、アクションとの両立がキーポイントとなっていた。
一旦リップの設定から思考を離れて考えよう。そう思い立って、別の部分になにか追加することで潜航深度を抑えられないか?と考えた。
様々な思いを巡らせる中で、ふとヘドンのヘルベンダーというルアーが思い浮かんだ。障害物回避能力の高いレジェンド的クランクベイトだ。このルアーにはテールに極小ブレードがついている。テールにブレードをつけることでアクションの安定性を得られる設定だと思うのだが、これを応用してみようと考えた。
バルバトスは超高速でリトリーブする。そのアクションの安定性を維持し、ブレードを大きくすることで、揚力を活用してもぐらせにくくするという考えだった。
ブレードサイズを様々調整することで思っている範囲の潜航深度・高速安定性に落ち着いた。そこで島田氏には釣りビジョンの撮影を行いながら、このテールブレードタイプでさらなる実釣テストを進行してもらうことになった。
釣りビジョン動画内でロクマルを獲ってもらったのがこのテールブレードセッティングとなった。
釣りビジョン2番組、再撮影も含めて約3ヶ月、ほぼバルバトスを投げまくってもらい、
都度報告を頂いた。
島田氏がフィールドで直接魚と対峙する中で、ブレードテール設定だと潜航深度が浅すぎて、ほぼトップウオーターレンジに絞られてしまい【もう少し潜らせたい】という話が上がってきた。
島田氏の理想を追求するには、実釣検証でのトライアンドエラーがつきもの。これが面白いところでもあり、辛いところでもある。
そこで、一旦リップとテールのセッティングを完全にリセットし、今までとは違う形状・あえて試さなかった角度などでリスタートした。
6.シャローレンジを素早く引く到達点としてのリップ
最初のうちは、いわゆる【ルアーのリップ】と思える形状と角度でサイズとリップを付ける位置を変更しテストを繰り返していた。
しかし、ここまで来ると、あえて元来のリップの概念とは違ったアプローチを試さないと、島田氏の求めるものはできないと感じるようになっていた。
ルアーは浮力とウエイトバランス・潜航角・ボディ形状・リップ形状と角度・ラインアイの位置など複数の条件の組み合わせでアクションの質や引き抵抗が変化してくる。バルバトスも大きなボディとリップの組み合わせの絶妙な関係を導き出す必要があった。
そこで、通常のリップ角度とは逆の、【テール側にやや傾いた角度】にし引き抵抗を軽くし、それでいてアクションはしっかり残すために幅をもたせた形状に設定。
リップ面は僅かな水流をつかみきるように特徴的なL型にし、ミノー的なアクションを出せるようになった。この形状で4タイプ、角度違いを作成し、島田さんとのテストに挑むことにした。
一庫ダムバックウォーターで朝イチから4種類のリップを付け替えキャストを繰り返し、
候補を2つに絞った。
やはり、巻抵抗を減らすとアクションはメリハリがなくなり、時折動かなくなる。かと言ってしっかりとアクションするレベルまで角度をつけると引き抵抗が辛くなる。まさに紙一重のセッティングを出さないといけなかった。
更に現地でも複数回加工し、よりバランスの取れる形へと修正を繰り返し、ようやく製品版の純正リップである【SFリップ】が完成したのである。
早速、3Dプリントサンプルを作成し、島田氏にテストしていただいた。結果が出るまではさほど時間はかからなかった。
さすがはサタン島田。リップのスナッグレス・ウィードレス性を活かし、ゴミの下を素早く引く釣法で結果を出してくれた。魚からもOKをもらえた瞬間だった。
Comments