ADUSTAのルアーデザイナー中西です。今回は、中国工場でのルアー生産の実際について詳しくご紹介したいと思う。
私がこの業界に入って25年、より高品質なルアーを創り出すために常に新しい生産技術や工法について研究してきた。ここ10年ほどは特に中国国内の工場に数多く足を運び、自身の思うルアーを再現できる工場が無いか探しまくってきた。
単にルアー系の工場と絞ったとしても中国には数千に及ぶ大小さまざまな工場があり、高品質な製品を手掛ける一握りの工場から、低価格である程度の品質で大量生産する工場まで幅広い。
私は自ら現地へ出向き、工場の状態や製造工程、使っている機械のチェックを行い、工場の社長や工場長と直接会話を重ね、その工場がどのような姿勢でモノづくりに向き合っているのかまで確認している。
中国工場の視察を本格的に始めたのは2015年からで、コロナ以前の約4年間で少なくとも40以上のハードルアー工場を訪問した。こうした工場の中から、ADUSTAの製品に適した工場を厳選し、現在お付き合いしている工場は4つほど。これらは、品質の高さを維持しながらも量産に対応できる、なかなか見つからない貴重なパートナー工場となっている。
中国工場での量産体制は、なかなか紹介されることも少なく日本にいるとブラックボックスのような感覚で、妄想で全て機械が生産していると思い込みがちだ。
ここからは実際の工場内の風景を踏まえて、ABS製ハードルアー量産の現実を紹介しようと思う。おそらく想像以上に人の手で制作されていることに驚かされるだろう。
まず、インジェクションルアーの製造では大きなABS射出成形機を使ってルアーの左右のボディを成形する。
プラモデルを想像してもらうと分かりやすいと思うが成形直後のルアーの周りには余分なランナーがついているため、これをペンチで1つずつ切り取る作業から始まる。人の手作業が早速入る工程。
次に、内部にラインアイやフックアイ、そしてスチールボールや鉛などのウエイトを配置していく。
その後、超音波接着器を使って左右のボディを接着。超音波接着では、左右のボディを微細振動で摩擦させることでABS樹脂が溶け合い、一体化するという方法を採用しており、接着剤を使わないため高温にも強い構造が実現されている。
ただし、超音波接着には細かい隙間が生じやすく、仕上がりに少し影響が出る場合もある。この点で、日本の工場では溶剤を使った接着が一般的で、より見た目が美しく仕上がる傾向があるのだが、耐熱性の面ではやや劣る。
このように、接着方法には一長一短があるため、アダスタでは耐熱性を重視し超音波接着を採用、さらに隙間を埋める手作業を加えて、完成度を高めている。
そして、接着が完了すると次に「バリ取り作業」が必要になる。熱で接着した際にボディ周囲にバリが出てくるため、これも工員さんが1つずつ丁寧に取り除く。
この工程は手作業であり、ここからさらに細かくペーパーがけをして表面を滑らかに整える。これでようやく塗装の下地が出来上がり、次の塗装工程に移ることができる。
塗装工程では、塗料を目的の色に合わせて複数の層に分けて塗り重ねることで美しい仕上がりを実現している。
色や柄の部分にはパッド印刷も取り入れ、モデル名や柄を専用スタンプで1つずつ押すこともある。
塗装においても、自動化された塗装装置を使う工場・工程は、まだまだ限られており多くの部分で工員さんの手塗りが必須。
また、最近では3Dインクジェットプリンターも取り入れられ、リアルな魚の模様をプリントする技術が普及しているが、まだ発色の鮮やかさや生命感といった部分ではエアブラシ塗装には及ばないのが現状。
こうしたプリンターを活用しつつも、工員さんの技量に頼る手作業が欠かせないのが、現在の中国工場の実際の姿といえる。
さらに、塗装が完了したらボディ全体をコーティングし、色がしっかりと発色しているかや傷がないかといった検品が行われる。
検品後には、ルアーの「目」を左右に接着。これも一つずつ工員の手で丁寧に配置され、ここでやっとルアーが生命感を帯びた外見に仕上がることになる。
そして最後の工程としてフックを取り付け、ゴムバンドなどでフックを固定してパッケージングが行われる。
これらの工程は、量産ルアーであるにも関わらず、ほとんどが手作業で行われている。実際の工場では一日で何百・何千個もルアーを生産する必要があり、一定の品質を保ちながら作り上げるのは非常に高度な工程管理と統制が必要になってくる。
このように中国工場でのルアー生産は、オートメーション化が進んでいる部分もある一方で、まだまだ人の手を必要とする部分が大半を占めているのが現実。ハンドメイドと言えるレベルかも知れない。アダスタの製品も、こうした細やかな手作業を経て、ひとつひとつ丁寧に仕上げられているのである。
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